パズルのピースを繋いだら

あ。


その姿を捉えて、思わず声が出そうになった。

歌の主は、野方瑛だ。

目を閉じてギターを奏でる彼は、私に暴言を吐いたとはとても思えないような澄んだ声で、夜空に向かって歌っている。

誰ひとり足を止めることはない。私も、あいつに気付かれる前に通り過ぎてしまおう。

そう思ったのだが。


「よっ、亜梨実!」


ちょうど歌が終わり、少し離れたところから呼び止められた。気付かれた。

無視しよう、うん、そうしよう。関わるだけ無駄だ。勝手に知り合いみたいな態度でいるけれど、まだ二度程会っただけだし。

そのまま足を速めた。


「おーい、亜梨実ー!無視すんなー。」


うっとうしい。話しかけるな。
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