パズルのピースを繋いだら
「俺の家の真下に大家が住んでてさ、八十近いばあちゃん。」
「はい?」
驚いている私を他所に、全然関係ない話をし始めた。やっぱりこの人、変だ。
「ここの家賃の支払いは毎月手渡しで、月末に払いに行く度にお喋り好きのばあちゃんの話に付き合ってやるんだけど、俺優しいからさ。」
「だから、何のはな、」
「それで先月聞いたんだよ、お隣さんが今月末に出てくんだって。彼氏と一緒に住むらしい。」
「……。」
「引っ越しは、三十一日。」
来週の、日曜日。珍しく日曜休みの日だ。
「それだけ。俺が知ってんのは。」
二階の右から二番目の部屋を見上げる。ドアの左側に小さな窓がある。淡いピンク色のカーテンを通して光が漏れている。
この部屋の中で、スーパーで買ったばかりのアイスを食べているのだろう。
私は、その場を去った。もう空になったパピコを握りしめながら、泣きながら。野方瑛は何も言って来なかった。
夜の道は思い切り泣かせてくれた。家に着くまでずっと、私の視界は涙で歪んだままだった。