おててがくりーむぱん2
光恵は唇を噛む。
うっすらと笑みを浮かべていた先生の口元が歪んだ。
「あなたとわたし、どこが違うの? あなたは女優でもなんでもない。特別な女じゃないわ。わたしと同様、ただの塾講師でしょう? 彼と出会ったか、出会わなかったか、ただそれだけの違いなのに。なんであなただけ、彼みたいな男と結婚できるわけ? 不公平よ」
「……」
「いいじゃない、ここでの仕事を失っても。佐田さんと結婚できるんだから。一生安泰でしょ?」
光恵は耐えきれず、事務室から走り出た。
ひどい。
ひどい。
ひどい。
親切にしてくれた人が、掌を返すように冷たくなる。
懸命にしていた仕事が奪われる。
排気ガスの匂いのする空気を吸いながら、駅の方へと必死に走った。
みんなに見られている気がする。
笑って、指をさしている。
とても電車には乗れない。
光恵は駅前のロータリーでタクシーに乗り込んだ。どさっとシートに座ると、顔を見られないようにうつむく。
「どこへ?」
運転手がミラー越しに光恵をちらっと見た。光恵は小さな声で自宅の住所を告げる。
この運転手も、気づいたかもしれない。
怖い。
助けて。
孝志。