おててがくりーむぱん2


庭に面したリビング。光がよく入るけれど、冷房が効いているので涼しい。ダークブラウンのフローリングに、ダイニングテーブル。クリーム色のソファには、母親が好きなパッチワークキルトのカバーがかかっていた。


ダイニングチェアに座っていた父親が、孝志の顔を見て立ち上がる。


「お邪魔します」
孝志が頭を下げると、父親も「どうも」と言って頭を下げた。


「何をお飲みになりますか? アイスコーヒーは?」
母親が訊ねたので、「じゃあ、それでお願いいたします」と孝志が答えた。


甘い微笑みを添えて。


母親が明らかに慌てたような素振りを見せる。急いでキッチンに入り、視界から消えた。


「みなさんでお召し上がりください」
孝志がケーキの箱を父親に差し出した。


「ありがとうございます」
父親は丁寧にそれを受け取った。「どうぞ、お座りください」手でソファを示す。孝志は頷いてソファに腰掛けた。


母親がアイスコーヒーをトレイに載せてやってきた。


「どうぞ」
「ありがとうございます」


緊張した空気が流れる。光恵はちらちらと父親の顔をうかがった。


気づいているようには見えない。父親は正直、あまりテレビを見ないし、芸能に疎い。光恵が脚本家として働きだしたときも、猛反対した。


そんな訳の分からない仕事につくな。


サラリーマン人生をそろそろ終えようとしている父親の頭には、いつのまにか白髪が増えた。銀縁の眼鏡に穏やかそうな目。地道に働き、大手食品メーカーの部長職についている。

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