おててがくりーむぱん2
鏡の中の自分の姿を見て、孝志は深呼吸する。オフィスで着るようなスーツに、えんじ色のネクタイ。髪はきれいにセットされ、完璧だ。ただし、心の中は別として。
このイベントを乗り切れば、元通りになるのだろうか。
また光恵と一緒にいられるのだろうか。
志賀は「別れてほしい」と率直に言って来た。
「彼女といることは、マイナスにしかならない。仕事を続けたいでしょう?」
光恵のために、表舞台に出て来た。
それなのに彼女を失うのか?
彼女のいない暮らしは、太ってた頃に住んでいた狭く汚いアパートと一緒。
すさんで、目も当てられない。
別れられない。
彼女なしでは、生きていけない。
「ううう、泣いちゃいそう」
孝志は一人控え室で、思わず泣きわめきそうになるのを、ぐっと堪えた。
そこに扉をノックする音がした。