おててがくりーむぱん2


まずい。
ばれた。


光恵はあわててうつむいた。


「今、何時かわかりますか?」


二十代前半の女性が、慌てた様子で聞いてきた。


「三時三分前です」
ばれたのではないと気づいて、光恵は静かにそう答えた。


「よかった、間に合った!」
その女性はほっと胸を撫で下ろす仕草をした。ショートカットで目がクリクリの、かわいい女の子。ナップザックにデニムという格好で、ボーイッシュな雰囲気だ。


「今日はカメラオッケーでしょ? ほんと間に合わなかったら口惜しいところだった」
にこっと笑うその顔は、とてもキュートだ。


「なんでこんな離れたところに? 前いこうよ」
「え?」
光恵はびっくりして後ずさりする。


「だって、孝志見に来たんでしょ? こんな近くで見られるの、すごいチャンス。いこいこ」
その女性は強引に、光恵をステージ前の混雑にまで引っ張って行った。


どうしよう。


「あの、ちょっと、いいんです、わたし後ろで」
「ああもう、これ以上前にいけないなあ」


光恵の言葉がまったく耳に入らないのか、人垣の後ろでぴょんぴょんと飛び跳ねている。

< 133 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop