おててがくりーむぱん2
まずい。
ばれた。
光恵はあわててうつむいた。
「今、何時かわかりますか?」
二十代前半の女性が、慌てた様子で聞いてきた。
「三時三分前です」
ばれたのではないと気づいて、光恵は静かにそう答えた。
「よかった、間に合った!」
その女性はほっと胸を撫で下ろす仕草をした。ショートカットで目がクリクリの、かわいい女の子。ナップザックにデニムという格好で、ボーイッシュな雰囲気だ。
「今日はカメラオッケーでしょ? ほんと間に合わなかったら口惜しいところだった」
にこっと笑うその顔は、とてもキュートだ。
「なんでこんな離れたところに? 前いこうよ」
「え?」
光恵はびっくりして後ずさりする。
「だって、孝志見に来たんでしょ? こんな近くで見られるの、すごいチャンス。いこいこ」
その女性は強引に、光恵をステージ前の混雑にまで引っ張って行った。
どうしよう。
「あの、ちょっと、いいんです、わたし後ろで」
「ああもう、これ以上前にいけないなあ」
光恵の言葉がまったく耳に入らないのか、人垣の後ろでぴょんぴょんと飛び跳ねている。