おててがくりーむぱん2
孝志の顔に何かの感情がよぎった。
光恵にはそう見えた。
でも、彼は誰にでも向けるような外向きの笑顔を光恵に向けると、すぐに視線をそらしてしまった。
帰ろう。
駄目だ、ここにいては。
孝志の仕事の邪魔になる。
光恵は眼鏡をかけ直し、群衆から一歩下がった。
「ねえっ、孝志、今こっち見たよっ」
ショートカットの女性が、うれしそうに叫んで、光恵を振り返った。
彼女と目が合う。
彼女の笑顔が凍り付いた。
「あなた……」
光恵の足がすくむ。
「あなた……あの女でしょ?」
光恵は必死に首を振る。
彼女は光恵の腕を掴み、帽子と眼鏡を強引にとる。それから顔を覗き込み「やっぱり」と声をあげた。
「ちょっと、ずうずうしいにもほどがあるわ。こんなところにまで出て来て」
彼女の顔色が怒りで赤く変わった。
「自慢でもしにきたの?」
「違います」
「じゃあ、なんで来たのよ。それとももう捨てられて、連絡つかないから、こんなところまで会いに来た?」
「違います」
騒ぎに気づいた報道陣が「おい、あれ」と声をあげた。
カメラが一斉に向けられる。
光恵は逃げたくとも足が思うように動かない。
彼女が光恵の首元を掴み、手を上げたのが見えた。
殴られる。
光恵はぎゅっと目を閉じる。
その瞬間、孝志が何か叫ぶのが聞こえた。