おててがくりーむぱん2


撮影オッケーの現場だったので、あっという間に写真が出回った。マスコミが撮った写真の光恵は隠されていたが、一般の人のカメラは違う。彼女のおびえる顔も、自分が怒ってる顔も、すべてネットの上に出た。


「なんで、わざわざイベント会場に、出てくる訳? どう考えても、女は『騒がれたい』だけなんだよ」
「佐田孝志も、怒鳴らなくてもね。大人の男なら、もっといい対応ができたはず」


自分の評価が、あっという間に下がっていく。孝志はどこか人ごとのように、その様子を見続けた。


「二人とも、自分たちの恋愛に酔っちゃってる。見てるこっちは、引くっつうの」
「脳内、お花畑の二人」


どうしたらいいのか、まったく見当がつかない。仕事はほぼなくなり、このままではこのマンションも追い出される。


それから?
俺はどうやって生きて行く?


役者ではない自分を考えた。


台本の中から浮かび上がる、自分の新しい姿。
見たことのない景色を見て、感じたことのない気持ちを抱く。
佐田孝志では経験することのない、別人の人生。


わくわくするんだ。
指先が痺れるくらい。
身体の熱が隅々に行き渡って。


そんな体験、他の仕事ではできない。
手放したくない。


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