おててがくりーむぱん2
「え? なんで?」
ぽかんとした顔で、春恵がきいた。
すると孝志がソファから降り、床の上で正座をした。頭を深く下げる。突然のことにびっくりした母親が「まあ! 佐田さん! 顔をあげてください」と孝志の腕をとろうとした。
「申し訳ありません。結婚はしばらく内密にしたいんです」
孝志が言った。
父親が顔をしかめる。それから「なぜです?」と問いかけた。
「事務所はまだ、僕たちの結婚を許していません。早くとも三十五までは、僕に独身でいてほしいと、そう考えているんです。でも僕は、もう一時も彼女と離れたくない。彼女に三十五まで待ってくれと、とても言えないし、言いたくないんです。だから、周りには知らせず、結婚したいと、そう考えました」
「……」
父親は顔をしかめたまま、腕を組んだ。母親を見ると、心配そうに光恵に視線を送っている。
「光恵はそれでいいのか?」
父親が訊ねた。
「うん。仕方がない」
光恵はそう答えながらも、違和感を感じている。本当はみんなに祝福されて結婚したい。でもそれは叶わないんだ。
「そうか……」
父親は再び黙り込んだ。