おててがくりーむぱん2


通い慣れた青山のマンション。
ここに来るのも、今日が最後だ。


扉が開かれると、グレーの部屋着を着た孝志が立っている。


「久しぶり」
「久しぶり」
「……あんまり、変わってないじゃない? すごく太っちゃったのかと思った」
「太ったけど、戻したんだ。ミツは少し痩せた?」
「うん……でも、戻した」


お互いに笑い合う。


部屋には段ボールが積み上げられる。ベッドルームには大きなグリーンのスーツケースが一つ。


二人はソファに並んで座った。
しばらくの沈黙。


言うべき言葉は分かってるけど、この期に及んで先に延ばそうとしている。


「あしただなんて、急ね」
光恵はワイン色のスカートの裾を引っ張りながら、なんてことのないように訊ねる。


「ミツの声を聞いたら、決心が鈍ると思って」
「そっか」


再びの沈黙。
痛い。

< 156 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop