おててがくりーむぱん2
通い慣れた青山のマンション。
ここに来るのも、今日が最後だ。
扉が開かれると、グレーの部屋着を着た孝志が立っている。
「久しぶり」
「久しぶり」
「……あんまり、変わってないじゃない? すごく太っちゃったのかと思った」
「太ったけど、戻したんだ。ミツは少し痩せた?」
「うん……でも、戻した」
お互いに笑い合う。
部屋には段ボールが積み上げられる。ベッドルームには大きなグリーンのスーツケースが一つ。
二人はソファに並んで座った。
しばらくの沈黙。
言うべき言葉は分かってるけど、この期に及んで先に延ばそうとしている。
「あしただなんて、急ね」
光恵はワイン色のスカートの裾を引っ張りながら、なんてことのないように訊ねる。
「ミツの声を聞いたら、決心が鈍ると思って」
「そっか」
再びの沈黙。
痛い。