おててがくりーむぱん2
空港の出発ロビーのざわめき。
二人はしきりに時計を気にする。
つないだ手は、お互いの体温でほのかに暖かい。
いつのまにか秋も深まった。
ニット帽を深くかぶった孝志の横顔を見上げると、その視線に気づいて光恵を見る。
強く手を握りしめた。
「もう、いかなくちゃ。時間だ」
「うん……これからどうするの?」
「英会話学校に入って、演劇の学校にも入る。事務所が選んでくれた」
「そっか」
「オーディション、受けまくるんだ。久しぶりだよ、こんな風に必死になるの」
孝志はそういって笑った。
光恵は自分の薬指から、そっと婚約指輪を外す。孝志の掌に返して、握らせた。
孝志は黙って指輪を受け取ると、光恵を優しく抱きよせる。
「きっとまた出会える。不思議な巡り合わせで、再び出会うと信じてる」
「うん」
光恵の瞳から、堪えていた涙があふれて来た。
「愛してるよ。ずっと、ずっと。どこにいても、何をしていても、光恵を愛してる」
「わたしも、愛してる」
「さよなら」
「さよなら」
ゲートの中に消えて行く、彼の背中。
振り返らない。
光恵は掌で涙を拭って、歩き出す。
外に出ると、空を見上げ、目を細める。
「さあ、がんばろ」
光恵は小さくそう言った。