おててがくりーむぱん2
「えー、何? いいじゃん別に、秘密でも。佐田さんがお兄さんだなんて、こんなチャンスないし」
春恵が考えなしにそう言うと、「あなたの話はしてないわよ」と母親がたしなめた。
「あの、わたしたちの親戚にも、秘密にしなくてはいけないんでしょうか。結婚式はどうするんですか? 家族行事に、佐田さんはいらっしゃることができない、そういうことですよね」
孝志は頭を下げたまま「本当に申し訳ありません」と言った。
「わたしは別に、結婚式をしなくてもいい。一緒に暮らせなくてもいいの」
「光恵……」
母親が絶句する。光恵は心底申し訳なく思った。
「顔をあげてください」
父親が言った。
「光恵が望むのなら、わたしたちが反対する理由はない」
父親は依然として顔をしかめながらも、そう言った。
「ただ、娘を泣かせることはしないと、約束してください」
「はい。幸せにします」
孝志はそういうと「ありがとうございます」と再び頭を下げた。
「やったー。佐田さんの親戚になっちゃった!」
春恵が小躍りしている。
「お兄さん、今度若手俳優に会わせてよ!」
「ちょっと、春恵。だからそういうの駄目なんだって」
光恵は恥ずかしくて、春恵の腕をぱんと叩いた。
「ええー、がっかりー」
「ごめんね、ミーハーで」
光恵が孝志に謝ると「いいよ、別に」と笑って返す。