おててがくりーむぱん2


「皆川さん、こっちこっち」
ホテルの前で、社長が手招きする。


前日も締め切りに追われて寝てないぼろぼろの格好で、光恵はやっとこさホテルの前にまでたどり着いた。
一応、スーツは着てみた。色気も何もない、地味なスーツだけれども。


「おーい、晴れ舞台だよ。もうちょっときれいにしておいでよ」
光恵の全身を眺めながら、社長がため息をつく。


「じゃあ、お仕事の締め切り、少し遅らせてください」
「ムリ」
「……わかってました」


光恵は笑った。


ホテルのホール前には、報道陣や関係者がごったがえしている。あのカメラの前に出るかと思うと、嫌な思い出が蘇った。


「顔、ばれたりしないかしら……でも、もう六年も前だし」
光恵はそう思って、思わず立ち止まる。


六年。
そっか、もう六年も経ったんだ。


「皆川さん?」
社長が立ち止まった光恵を振り返る。


「あ、すいません」
光恵はあわてて社長の後に続いた。


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