おててがくりーむぱん2


会場がどよめく。


「ほら、佐田孝志だよ」
ミーハーな社長が指をさすが、光恵はそちらの方向を見ることができない。


「顔、あげろってば」
社長は言うが、内心「放っておいてください」という感じだ。


せめて、ちゃんと眠るんだった。
目の下はクマができてて、肌はかさかさだ。
コラーゲンぐらい飲んどきゃよかった。


でも。


あれから六年たった。
孝志からの連絡は、たった一度。


『会いたい』
はがきにはその一語だけ。


光恵も一度だけ『会いたい』と返した。


それきりだ。


孝志は今、どんな気持ちでいるんだろう。
光恵はかつて指輪がはまっていた部分を、そっと指でなぞった。


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