おててがくりーむぱん2
「かあさん、こちら皆川光恵さん。俺、結婚しようと思うんだ」
孝志が母親にそう言った。
ゆったりとした白のサマーニットを着た母親は、じっと光恵をみつめる。
ああ、そんなに見ないで。
緊張しすぎてめまいがしてきた。
「孝志、仕事はどうするの?」
「続ける」
「大丈夫なの?」
「何が?」
孝志がぽかんとした顔で訊ねた。
「だって、ほら、あんた俳優でしょ、一応」
「まあね」
「あんたぐらいの年齢で結婚してる俳優さん、少ないわよ」
母親の眉間に、皺が寄った。
そこに「失礼します」と言って、襖が開いた。
給仕の方がお茶をつぎ終わるまで、三人は黙り込む。ちらりと母親を見ると、眉間の皺が寄ったままだ。
光恵は嫌な予感がした。
襖が閉められると、待ってましたと、母親が口を開いた。
「今みたいなお仕事はもらえなくなるわよ」
「う……ん。かもね」
「結婚するって、どういうことか分かってる? 好きだ愛してるだけじゃあないのよ?」
「う……ん。だからさ……この結婚を秘密にしようと思うんだ」
孝志が言った。