おててがくりーむぱん2
4
改めて真向かいから見ると、大人になった。
佑司の頬が、テーブルの上のキャンドルの光に照らされて、オレンジ色に染まる。
「光恵、ワインでいい?」
佑司が訊ねた。
「うん」
光恵は頷く。
唇の脇に、えくぼができるのは、変わらない。
ただ、大人になった。
オーダーがすむと、佑司が大きく息を吸って、それから笑顔を見せた。
「久しぶり」
「うん」
「久しぶりって、何度言ったかな?」
佑司が笑う。「緊張して、何しゃべったらいいか分からないよ」
「うん」
光恵は頷いた。
「……ちゃんと、別れの挨拶をできなかったから、ずっと心残りだったんだ」
佑司が言う。
「なんとなく、離れたって感じだったから」
「そうね」
「ごめんな」
佑司が眼鏡に手をかける。
これは気まずいときの彼の癖。
「いいの。わたしも……何も言わなかったから」
「……そうか」
佑司がワイングラスに手を伸ばした。
「でも、光恵が就職した劇団の芝居、見に行ったことあるんだよ」
佑司が笑いながら言った。