おててがくりーむぱん2
「ごめんね」
相変わらず口をむうと突き出している孝志に、光恵は謝った。
孝志のマンション。
車の中でも、孝志は機嫌が悪かった。
「謝るようなこと、したんだ」
孝志は眼鏡を取ると、ぽいっとソファに放り投げる。クーラーのスイッチを入れて、それもぽいっと投げた。冷房が動き出すと、人工的な冷たさが部屋に流れ込んで来た。
「してないけど、でも孝志を不安にさせちゃった」
光恵はソファに座ると、ふうと溜息をついた。それを見て、孝志の突き出ていた口が、引っ込んだ。そのまま光恵の隣に座る。
「やましいことはなくても、元彼に会うって、ちょっと後ろめたいんだよね」
「会わなきゃいいじゃん」
「今日偶然会って、ちょっと話をしないかって言われたの。彼とわたし、自然消滅みたいな感じだったから、区切りを付けたかったっていうか」
「俺、わかんないよー」
孝志はふてくされたように、ソファに転がった。
「結婚する人がいるって、彼に伝えた。彼も『幸せに』って言ってくれた。これでちゃんと終われたの。これからも会うことがあるかもしれないけど、怪しいことなんか一つもないから」
光恵はそういうと、転がる孝志の腕を優しくさすった。
「ほんと?」
「ほんと」
「俺と結婚する?」
「うん、もちろん」
孝志は身体を起こすと、光恵の身体をぎゅうーっと抱きしめた。
「もし彼に会うときは、隠さないで教えて」
「うん」
「絶対だよ」
「うん」