おててがくりーむぱん2
「じゃじゃじゃ、よろしくお願いします」
進上が立ち上がり、伝票を全部手に持つ。
小一時間、進上の猛烈トークに付き合った。
とにかく進上の独壇場で、孝志はただ笑って頷くしかなかった。ここで出演交渉をされても、自分自身に決定権はない。進上もおそらくそれは分かっていて、今後のためにこの縁をつないでおきたいだけなのだろう。
「進上さん、僕が払いますよ」
孝志が手を伸ばすと、進上がとんでもないというように首を振る。
「いやいや、佐田さんに申し訳ないですから。じゃあ、お邪魔しました」
ぺこりと頭を下げると、日差しの強い外へと進上が出て行く。
再びの静寂。
「すみませんでした、なんだかおかしなことになって」
佑司が申し訳なさそうな顔をした。
「いえ」
「じゃあ、僕も失礼します。昼休みをオーバーしそうなんで」
なんだか気勢をそがれて、二人とも居心地が悪い。
「なんの話だったか、わかんなくなっちゃいましたね」
佑司はそういうと笑う。
「そうですね」
孝志もつられて笑った。
「光恵によろしくお伝えください」
去り際、佑司が言う。
「それはお断りします」
孝志がきっぱりと断ると、佑司はにやりと笑った。
「おもしろい人だな、佐田さん」
「今日はお時間、ありがとうございました」
孝志もにやりと笑って、頭を下げた。
話の内容の割に、随分と和やかな終わりだった。
光恵のことがなかったら、いい友達になれたのかもしれないのに。
残念。
孝志はそんなことを思いながら、仕事現場へと向かった。