おててがくりーむぱん2
夢と現実
1
「あれー、おっかしいな。コレ」
野島がごにょごにょ言いながら、真新しいコンピュータを触っている。
「えいっ。あ、違った。なんだこりゃ。まったく」
野島がちらりとこちらを見たが、光恵は素知らぬ振りをした。
聞かれてもわかりませんから。
授業終わりの、穏やかな夜。
夏期講習も終わりが見えて来て、生徒達もそして講師達も疲れている。
「さよならー」
受付から、小学六年生の男の子達が元気よく挨拶をしていく。
「さよなら」
受付にいた野島が、心のこもらない声で返事をする。
あれ、いつか、クレーム来るかもな。
光恵はぼんやりとそんなことを考えた。
「ちょっとー、皆川サーン」
とうとう野島から声がかかった。
光恵は「よいしょ」と立ち上がると、苦戦している野島の方へと歩いた。
「どうしました?」
「コレ、さっぱりだよ。どうしたらいい?」
野島ががっくりと肩を落とす。
「サポートセンターに電話したらどうですか?」
「死ぬほど電話したけど、繋がらないんだ」
「新しいシステムを入れたばかりで、どこの教室も分からないことばっかりなんでしょうね」
「なんとかしてよ、皆川さん」
「わたし、本当にわかりません」
「やっぱり強引に、あのとき使い方教えてもらっときゃよかったのに」
野島が責めるように言った。