おててがくりーむぱん2
「あ、鈴木さんに、電話してよ」
野島がぱっと顔を輝かせる。
「あの人営業ですよ」
「でも皆川さんの友達じゃん。電話かけてかけて」
「今から?」
「今から!」
野島の熱視線を感じながら、光恵は携帯を取り出した。
本当は、携帯から番号も削除しようと思っていた。
孝志のあの不安そうな顔。
光恵の胸が痛む。
佑司への思いは、とっくに消えている。
そのはずだ。
彼の顔を見てわき上がる感情は、すべて過去を懐かしむ甘酸っぱいもの。
今じゃない。
でも……。
光恵は少し躊躇した後、佑司の番号に発信した。
「もしもし」
彼の声。
「もしもし」
「光恵?」
「うん」
「どうしたの? システムトラブル?」
佑司はよく分かってる。光恵は思わず微笑んだ。
「そうなの。よくわかったね」
「光恵から連絡はこないって思ってたから」
「そっか」
「今、塾?」
「そう。野島さんが、もう困っちゃってて」
「そっちに二十分くらいで行けるよ」
「いいの? だって……電話でも……」
「光恵の顔を見に行くよ」
佑司の言葉に、あろうことか、どきっとする。
「待ってて。じゃあ」
ぷつっと電話が切れた。