おててがくりーむぱん2
孝志に腕を引かれながら、イライラが増してくる。ビルの地下駐車場へ降りるエレベーターの中でも、孝志は無言を決め込んでいる。こちらを見ようともしない。
光恵はイライラがピークに達していた。孝志のすました横顔に、心の中で暴言を吐きはじめる。
このくらいの障害で、もうあきらめる?
あのいじわるマネージャーの言いなりって訳?
所詮その程度の思いってことよね。
ばかやろう。
白いBMWの扉を開け、二人乗り込む。モアっとした車内の空気を吸い込んだ。ぷりぷり怒りマックスの光恵は、どしんと革張りのソファに座って、腕を組む。
指輪、外してやるからな。
もうおっぱいだって、触らせない!!!
「秘密にしよう」
孝志が言った。
光恵は眉間に深い谷を作りながら「は?」と声に出した。
「だから、秘密で結婚すればいいんだ」
孝志は得意げな顔で、そう言った。
「本気?」
「うん、本気」
「ばれたら?」
「だからばれないようにするんだ」
光恵は意表をつかれて、返事に困った。
いいの? それ。
「駄目かな?」
孝志の不安げな眼差しに、思わずきゅんとなる。
「駄目じゃあ、ないけど」
光恵は深く考える暇もなく、そう答えてしまっていた。
「じゃあ、決まり! 今度ミツのパパとママに挨拶行くからね」
「はあ」
光恵の心が「真剣に考えちゃだめ! これは勢いよ!」と叫んでいる。
車のエンジンがかかる。ご機嫌の孝志からは、能天気な鼻歌。光恵は釈然としない気持ちのまま、結婚に向かって走り出した。