おててがくりーむぱん2
塾の最寄り駅で降りる。
歩道を歩くと、足ともとから熱気がすごい。
光恵はふうと小さく息を吐いた。
塾のビルが見えて来ると、光恵ははっとして足を止めた。
白いBMWが正面玄関のすぐ脇にとまっている。
車から孝志が降りてくる。いつもの帽子に眼鏡。薄いブルーのシャツとカーゴパンツ。孝志の口が「ミツ」と動いた。
光恵は孝志に促されるまま、車に乗り込んだ。冷えた車内。すぐに汗が引いていく。
「連絡しなくて、悪かった」
運転席に座る孝志は、光恵の顔を見ない。いつもの甘えるような仕草も、言葉も、何もない。きっとまだ怒っていて、そして多分、光恵と同じく不安なんだろう。
「ううん。わたしも……連絡しなかったし」
「忙しかった?」
「普通よ」
孝志は帽子と眼鏡を取って、ハンドルに右手を乗せた。何か考えているような様子だ。
「あいつの言う通り、俺は見境なく動きすぎた」
孝志が言った。
「……うん」
「俺は光恵なしじゃ生きて行けない」
「……」
「この仕事を辞めてもいいと思ってる」
孝志の言葉を聞いて、光恵は「え!?」と声を上げた。