木曜日の貴公子と幸せなウソ


2人が看板を持ってホールから出て行くのを見送ると、鍵が開いたままの倉庫の中を覗く。

電気がつけっぱなしになっているが、美雪先生も夏江も手がふさがっていたために消せなかったのだろう。

中は整頓されていて、看板を出した事で崩れた部分もなかった。

電気を消して、扉を閉めると鍵をかける。

きちんとかかったか、確かめた。

早く2人を追いかけて、作業に混ざらないと……。


「萌せんせー!」

「え?……あ、エミちゃん」


ホールを出たら、エミちゃんが私を見つけて走って来た。

エミちゃんの少し後方に、スーツ姿の先輩がいる。

先輩の姿を見て、急に鼓動が速くなった。


「こ、こんにちは!」

「……こんにちは」


エミちゃんの前だし、笑顔で先輩に向かって挨拶をした。

だけど、先輩は私と同じような笑顔で返してくれはしなかった。

そればかりか、少し不機嫌そうな顔をしている。

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