木曜日の貴公子と幸せなウソ


「え、あの、返してもらえないと困るんですが……」

「オレは萌と個人的に会ってもらえないのが困る」

「……はい?」


私と個人的に会ってもらえないのが……困る?


「い、いや、ちょっと待って下さいよ。先輩は結婚して、家庭があるんですよ?私は不倫をするつもりはありません」

「不倫じゃなきゃいいって事?」

「……え?」

「オレが結婚してなきゃ、付き合ってくれるって口ぶりだよな?」


結婚してなきゃって……。

先輩は結婚しているのだから、何もこの状況は変わらないし。

それに、結婚していなくても付き合うかどうかなんて……。


「明日会える?パスケース、その時に返すよ」

「……え、先輩、そんなの……」

「これまでの電車賃。それから、これはオレの番号とメアド」


内ポケットから手帳を取り出すと、サラサラとメモをした。

それを破った後、財布から一万円札を取り出してメモと一緒に私のエプロンのポケットに突っ込んだ。

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