木曜日の貴公子と幸せなウソ
「え、先輩、電車賃って、これで一か月分の定期買えますよ!こんなにもらえないです」
「それなら明日の夜返しに来て。それから萌の番号とアドレスもオレのスマホに後で送って」
返そうとしたけれど、先輩はすでに階段をおり始めた。
これ以上は先輩につめ寄る事ができない。
1階は他の人がいる。
何事かと大騒ぎになってしまうのわかっていて、先輩は私に反論をさせないようにワザと階段をおり始めたんだ。
「それじゃ、待ってるから」
「あー……」
キッパリと断る事ができなかった。
『だったら定期はいらないです!』
って強く突っぱねる事ができたら良かったのに。
……買ったばかりの定期を無駄にできるほど、私はオトナじゃない。
エプロンのポケットに入っている一万円札とメモをグシャッと手で握る。