木曜日の貴公子と幸せなウソ
有坂先生は廊下を見渡して、誰もいない事を確認すると、そっと私の耳元に顔を寄せた。
「……片山さんと親密そうですが、他の先生に見られたら誤解されますよ」
「……っ!」
しまった……。
さっき、先輩とやり取りしたのはホールの前。
誰の姿もなかったけど、有坂先生が準備室にいたのを忘れていた。
ドアは閉まっていたけれど、会話の内容は聞こえてしまったはずだ。
全身から血の気が引いて行くのを感じた。
「あ、あのっ!この事は誰にも言わないで下さいっ!私が困るからじゃなくて……いや、私も困るんですけど、その……」
「大丈夫。誰にも話すつもりなんてないし。そもそもこんなの脅迫材料にならないしね」
「きょ、脅迫?!」
「シー」
思わず大きな声をあげた私に、有坂先生は人差し指を自分の唇にあてる。
その仕草が、ヤケに色っぽく見えて思わず赤面してしまう。