木曜日の貴公子と幸せなウソ


で、でも、脅迫って……。

私が迂闊だった。


「あ、あの!本当にこの事は黙っててください……」

「言わないよ。あ、でもせっかくだから相談に乗ってもらいたいな」

「そ、相談……?」


そう聞き返すと、有坂先生は満面の笑みでコクリとうなずいた。


「だから、夕飯食いに行こう?」

「あ、でも、私はいつ終わるか……」

「大丈夫。S駅の改札口で待ってるから。何時になっても」


そう言うと、有坂先生はスーツの内ポケットから財布を出し、私に名刺を差し出した。

スポーツクラブの名前と有坂先生の名前。

そして、ケータイ番号やアドレスまで記載されている。

S駅は、スポーツクラブがある場所だ。

私の家の方向だし、問題はないんだけど……。


「有坂先生、でも……」

「来なかったら……わかるよね?」


念を押すように彼はそう言うと、爽やかな笑顔で教室を出て行った。


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