木曜日の貴公子と幸せなウソ


……あんな爽やかな顔で、人を脅す事ができるのね。

渡された名刺をギュッと握りしめて、私は深いため息をついた。

ああ、本当にもう……。

自分の迂闊さにあきれて物も言えない。

……でも、バレたのがまだ有坂先生で助かった。

夏江はともかく、他の先生だったらきっと大騒ぎになってしまう。

厳重注意じゃ済まされないほどに……。


「……はあ」


もう一度ため息をついて、私はペンケースに名刺を入れた。

何時になっても待つというのなら、仕事を早く終わらせないと。

気が進まないけれど、そう意気込んで私は教室を出て、職員室へと戻った。




仕事が終わったのは6時半だった。

これなら許容範囲だと思い、夏江と別れた後、急ぎ足で駅へと向かった。

有坂先生からもらった名刺に書いてあった番号とアドレスはスマホに登録してある。

待ち合わせ場所にいなかった時に、連絡しようと思って。

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