木曜日の貴公子と幸せなウソ


有坂先生は私が考えていた事を、読んでしまったのだろうか。

ニコッと爽やかに笑うと、私の腕をつかんで店のドアを開けた。

来たのは、牛丼のチェーン店。

生まれて初めて入った店なんだけど。


「萌先生は来た事ないの?」

「な、ないです」

「牛丼嫌いとか?」

「いえ、好きですけど、さすがに食べに来るまでは……」


有坂先生は慣れたようにカウンター席に座る。

あまりに意外な場所で、調子が狂ってしまった。

完全に空回り。


「まあ、ここなら緊張もないし警戒もされなくて済むでしょ?」

「……まあ、そうですけど」


私が警戒をしていた事に気が付いていたようだ。

苦い顔をしながら答えると、有坂先生はクスクスと笑う。


< 113 / 207 >

この作品をシェア

pagetop