木曜日の貴公子と幸せなウソ
有坂先生は私が考えていた事を、読んでしまったのだろうか。
ニコッと爽やかに笑うと、私の腕をつかんで店のドアを開けた。
来たのは、牛丼のチェーン店。
生まれて初めて入った店なんだけど。
「萌先生は来た事ないの?」
「な、ないです」
「牛丼嫌いとか?」
「いえ、好きですけど、さすがに食べに来るまでは……」
有坂先生は慣れたようにカウンター席に座る。
あまりに意外な場所で、調子が狂ってしまった。
完全に空回り。
「まあ、ここなら緊張もないし警戒もされなくて済むでしょ?」
「……まあ、そうですけど」
私が警戒をしていた事に気が付いていたようだ。
苦い顔をしながら答えると、有坂先生はクスクスと笑う。