木曜日の貴公子と幸せなウソ
そんな生活が続いてくれたおかげで、成瀬先輩の事は少しずつ心の奥深くに追いやる事ができたんだと思う。
高校生活は本当に辛くて苦しかった。
先輩から逃げるように始めた部活を頑張っても、短大で新しい生活が始まったとしても、ずっと消えてくれなくて。
もちろん、恋なんてできなかった。
しようとも思わなかった。
男の子と出会うたびに、先輩と比較してしまう自分がいたからだ。
トラウマになっていたのもあるけれど、先輩以上に好きになれる人がいなかったのもまた事実。
「明日は作品展のクラス看板の作成と……」
通勤カバンから手帳を取り出して、週案と照らし合わせて明日の保育内容をチェックする。
ペンケースを開くと、グシャグシャになった一万円札とメモが出て来た。