木曜日の貴公子と幸せなウソ


すでに外はシーンと静まり返っていて、先生たちの姿はなかった。

幼稚園の門を出ると、向かい側に見覚えのある車が一台停まっている。

先週、ほとんど強引に助手席に乗せられた車だ。

道路を渡って、車のそばに行くと、窓が開いた。


「萌、お疲れ」

「……お疲れ様です」


スーツがよく似合っている先輩。

一体何の仕事をしているのだろう?


「乗って。夕飯食いに行くよ」

「……はあ」


急かされて、私は後部座席のドアを開けようとした。


「だから、こっちだって」

「……はい」


助手席を指さした先輩。

私もわかってはいたけれど、すぐに助手席に乗り込むのはずうずうしいかなとも思った。

先週乗せてもらったから、今日も当たり前に助手席だろうって、考えているとも思われたくなかった。

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