木曜日の貴公子と幸せなウソ


先輩って、こんなにバカな人だった?

それとも、この7年の間に何かが先輩を変えてしまったのだろうか……?


「……萌はもうオレの事を名前で呼んでくれないの?」

「先輩も私を名前で呼ぶのをやめてくれませんか?」


車が赤信号で止まると、先輩はおかしそうに笑ってこちらを向いた。


「何で?萌は萌だろ?」

「……」


何の曇りもなく笑うその顔は、7年前、大好きだったものと一緒だ。

不意に見せられた事で、準備ができていなかったせいか、思わずドキッとしてしまう。


「……とにかくダメです」


悟られたくなくて、私はそっと視線を外してうつむいた。

信号が青に変わると、車が再び走り出す。

先輩は深いため息をついた。


「飯食う気分じゃねーや。このままオレの家に連れてく」

「……え?!」

「じっくり面談。7年前の事も含めて全部」


そう言った先輩の顔は、真剣そのものだった。


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