木曜日の貴公子と幸せなウソ


「おい萌。それ、どういう意味……」

「私は、子どもでしたよ。恋愛の事なんか何も知らない、本当に純粋な子どもでした」


先輩に口を挟ませずに私は続けた。


「好きなアイドルがテレビに出ているだけで、キャーキャー言っちゃうような子どもでした。マンガやドラマの主人公に感情移入して、ドキドキしたり切なくなったりしちゃうような子どもでした。……そんな私に先輩が告白してきたんです」


同じ学校にいるけれど、芸能人みたいに手の届かない、自分とは世界の違う人。

いつでもまぶしいくらいに輝いていて、みんなの人気者、成瀬邦章。


「……本当に信じられなかった。マンガみたいな事って本当にあるのだと心の底から嬉しかった」

「萌……」


薄暗い車内。

目が慣れて、先輩の表情がハッキリとわかるようになった。


先輩は不機嫌な顔ではなく、少しだけ切なそうな表情をしていた。

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