木曜日の貴公子と幸せなウソ
「不倫……?あ、萌、ちょっと待て……」
「早く行ってあげてください。父親なら」
素早く車を降り、ドアを閉めて、住宅街へと続く遊歩道へと走り出した。
これ以上、何の弁解も聞きたくなかった。
何を言われても、自分がみじめになるだけだし。
「……バカだ私」
走りながら、泣いた。
どこに向かっているのかもわからなかったけれど、とにかく走った。
7年間ぶつけられなかった事をぶつける事はできた。
これできっと、新しく踏み出せる。
もう振り返る事はしない。
家に帰ってくると、スマホが鳴り響いた。
カバンからスマホを出して、画面を確認してみると、相手は先輩。
着信音が途切れたと思ったらまたすぐにかかってくる。
私は電源を落とした。
こんな風に、想いを止められるスイッチがあったらいいのに。
パチッとオフにして、もう何も考えなくても済むようになれば……
どんなにいいか、わからない。