木曜日の貴公子と幸せなウソ
第三章
忘れたいのに
土曜日になっても、先輩からの電話がやむ事はなかった。
着信履歴が埋まる勢い。
時々メールも入って来たけれど、これは読まずに削除した。
エミちゃんの熱は大丈夫だったのだろうか。
父親のくせに、エミちゃんそっちのけで、奥さん以外の女に電話をする時間を作るとか……。
「はあ……」
辛い。
7年前もそうだったけれど、完全に嫌いになれなかった。
遊びだったかもしれないけれど、先輩のあの笑顔は本物だったと思うから。
悔しいけれど、今だって嫌いになれない。
メールを読んでしまったら、きっと決意が揺らぐ。
電話をとって声を聞いてしまったら、戻れない場所まで行ってしまうかもしれない。
『不倫は絶対にダメです』
あの時は、そんな事はありえないと少しバカにして笑ってしまったけれど、今になってその言葉が重くのしかかってくる。