木曜日の貴公子と幸せなウソ
……そう。
不倫なんか、バカげた事に走るわけがない。
どう頑張っても1番にはなれないのだから。
もう忘れて、新しい恋を探そう。
エミちゃんが卒園すれば、先輩は幼稚園に出入りしなくなる。
その頃にはきっと私も、新しい恋を始められているに違いない……。
「萌。ここ最近、木曜日ってずっと職員室にこもってない?」
「……え?」
職員室の自分の机で、黙々と作業をしていた私。
そう夏江に指摘されたのは、先輩への想いを断ち切ってから3週間が経過していた11月の半ば過ぎ。
作品展は明後日の土曜日に迫っている。
「……気のせいじゃない?」
「気のせいじゃない。木曜日の4時から5時過ぎまで絶対にここにいるもの」
「えー?」
「ここで作業をする方が珍しいでしょ。自分のクラスでやった方が効率いいし」
夏江に言われて、私はハハハと誤魔化すように笑った。