木曜日の貴公子と幸せなウソ


「……聞いてほしい話があるのに、私も言えない」

「……あ」


夏江に言われて思い出した。

先輩にパスケースを返してもらう約束があったから、夏江の話を聞けなくて、その次の週にって言ったのに。

週明けの月曜日は、私は風邪をひいてひどい状態で、また今度ねってなったままだった……。


「ゴメン、夏江……」

「……萌、木曜日って有坂先生の体操教室がある日だよ。4時から5時過ぎって有坂先生がホールから出てくる時間帯だよね?」

「……え」


胸に秘めていた事とは全く違う事を言われて、驚いてしまった。

確かに有坂先生がホールから出て来て、スポーツクラブへと戻る時間なんだけど。


「本当に本当は、有坂先生の事が好きなんじゃないの?それで、有坂先生と何かあったとか……」

「いやいや、それはない」


夏江の問いに私は慌てて答える。

< 154 / 207 >

この作品をシェア

pagetop