木曜日の貴公子と幸せなウソ
「……聞いてほしい話があるのに、私も言えない」
「……あ」
夏江に言われて思い出した。
先輩にパスケースを返してもらう約束があったから、夏江の話を聞けなくて、その次の週にって言ったのに。
週明けの月曜日は、私は風邪をひいてひどい状態で、また今度ねってなったままだった……。
「ゴメン、夏江……」
「……萌、木曜日って有坂先生の体操教室がある日だよ。4時から5時過ぎって有坂先生がホールから出てくる時間帯だよね?」
「……え」
胸に秘めていた事とは全く違う事を言われて、驚いてしまった。
確かに有坂先生がホールから出て来て、スポーツクラブへと戻る時間なんだけど。
「本当に本当は、有坂先生の事が好きなんじゃないの?それで、有坂先生と何かあったとか……」
「いやいや、それはない」
夏江の問いに私は慌てて答える。