木曜日の貴公子と幸せなウソ
教材室がある二階に上がっていくと、タイミングよくホールのドアが開いた。
有坂先生がジャージ姿で出て来て、私とぶつかりそうになる。
「きゃっ」
「おっと、萌先生、すみません」
「あ、す、すみません!」
驚いた拍子に自分でも驚くくらいの高い声が出てしまった。
よろけて転びそうになったところを、有坂先生が間一髪で抱き止めてくれる。
「重ね重ねすみません」
「それ、もしかして先月の約束の事も含まれてます?」
慌てて有坂先生から離れて、頭を何度も下げる私。
その言葉にドキッとしながら、ゆっくりと頭を上げると、有坂先生は苦笑していた。
「本当にすみません!その約束は近々必ず!」
「いやいいよ。なんか、萌先生、大変みたいだし」
「……え」
「顔に出てる。もう限界ですって」
有坂先生に言われて、涙腺が緩みそうになった。