木曜日の貴公子と幸せなウソ
止められない
職員室に戻ると、夏江の姿はなかった。
園長先生や年長クラスの担任の先生たちが、職員室に戻ってきている。
先輩も帰った事だし、私も自分の教室で作業を再開させようかな……。
広げていた教材を綺麗にまとめて片付け、それを手にして自分の教室へと戻った。
「……萌」
「あ、夏江!ごめん、落ち着かなくて……」
「どうしようっ!」
「……はい?」
私のクラスに入って来た夏江は、ソッとドアを閉めた。
そして、小走りで私の元へと駆け寄る。
妙にソワソワしている夏江。
「ど、どうしたの……?」
「さ、誘われたの!夕飯に」
「誰に……?」
「あ、有坂先生っ!」
頬を紅潮させながら、落ち着かない様子の夏江。
有坂先生に夕飯に誘われた……?