木曜日の貴公子と幸せなウソ


大人になれば、そんな事がなくなるんだって思っていた。

だけど、夏江は緊張でオロオロしているし、私だって先輩の事で胸が痛くなったり泣きたくなったりしている。

私が成長していないんじゃなかったんだ……。


「何話せばいいと思う?」

「いいんじゃない?自分の事でも、何でも。有坂先生の事が聞きたければ、質問するのもいいし」

「ああもう、緊張して吐きそうだよー」

「吐かないでね。その前に仕事終わらせないと」

「ああああ、そうだ!ごめんね、萌」


自分の状況を思い出して、夏江は隣の教室へと戻って行った。

その後ろ姿を見て、思わずクスッと笑ってしまう。


「……いいなぁ」


ため息と共に出てくる本音。

私はあんな風に振る舞う事ができない。


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