木曜日の貴公子と幸せなウソ
大丈夫だと自分に強く言い聞かせても、緊張は高まっていくばかりだった。
全然大丈夫ではない。
明確な約束の時間を設けたわけじゃないけれど、なぜか時計ばかりを気にしてしまう。
「萌、終わった?他の先生たち、もうあがり始めたよ」
「……あ、そ、そっか……」
そのうち夏江が教室に顔をのぞかせた。
時計を見ていたはずなのに、もうそんな時間かと我に返る私は、やっぱり動揺している。
「ああもう、どうしよう。緊張してきたんだけど!」
「……緊張してますって言っちゃったら?」
「バカだって思われちゃうかも?」
夏江のソワソワ感もおさまっていない。
私は広げていた教材を片付けて、立ち上がる。
「……あがろっか」
「そ、そうだね」
本当はあがりたくなんてなかったけど。