木曜日の貴公子と幸せなウソ


大丈夫だと自分に強く言い聞かせても、緊張は高まっていくばかりだった。

全然大丈夫ではない。

明確な約束の時間を設けたわけじゃないけれど、なぜか時計ばかりを気にしてしまう。


「萌、終わった?他の先生たち、もうあがり始めたよ」

「……あ、そ、そっか……」


そのうち夏江が教室に顔をのぞかせた。

時計を見ていたはずなのに、もうそんな時間かと我に返る私は、やっぱり動揺している。


「ああもう、どうしよう。緊張してきたんだけど!」

「……緊張してますって言っちゃったら?」

「バカだって思われちゃうかも?」


夏江のソワソワ感もおさまっていない。

私は広げていた教材を片付けて、立ち上がる。


「……あがろっか」

「そ、そうだね」


本当はあがりたくなんてなかったけど。

< 169 / 207 >

この作品をシェア

pagetop