木曜日の貴公子と幸せなウソ
髪の毛にくしをあてて、鏡でメイクの崩れがないかチェックをし、私服のしわを伸ばしている。
せわしない様子に、思わず私はクスッと笑ってしまった。
「え?!おかしいところあった?」
「ううん、違うの。夏江が可愛くて……」
「もうー、やめてよー」
テンパる姿は本当に可愛い。
私もこんな風に恋愛の事でテンパる事ができたら、可愛く見えたのだろうか?
……そんな姿を見せる相手なんていないけれど。
「それじゃ、萌。また明日ね!」
「うん。気を付けてね」
夏江が出て行くと、更衣室はとたんに静かになった。
他の先生たちはとっくにあがっちゃったし。
メールはまだ来ていない。
このまま着替えて外に出て、私はどうしたらいいんだろう?