木曜日の貴公子と幸せなウソ


時間をかけるようにゆっくりと着替えたけれど、やっぱり時間はつぶせなかった。

……バカバカしい。

逃げるのはやめるとか思ったけれど、私が待つ必要はどこにもない。

先輩は私よりも優先しなければならない家庭があるんだもの。

何で私が待たなきゃならないのよ……。


「……さむ」


中央玄関から外へ出ると、容赦ない冬の空気が襲ってきた。

もう11月も終わる。

作品展が終われば、クリスマス会に向けての準備がすぐに始まる。

うちもクリスマスツリー出さないとなぁ……。


幼稚園の門を出ても、いつもの場所に先輩の車はない。

いつもって言うほど、ここに来たわけじゃないけれど。

口元をマフラーにうずめて、ため息をつく。

今日は本当に寒い。

かなり冷え込むって、気象予報士が言っていたっけ。

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