木曜日の貴公子と幸せなウソ
遅れての登園。
まさかそのエミちゃんを連れて来たのが先輩だとは思わなかった。
予想もしていなかった状況に、私の手足が震えだす。
しかも先輩はスーツではなく私服。
もしかして、奥さんが出産したから休暇をとったとか……?
「萌先生、顔色が良くないわよ?やっぱり無理しないで帰って寝たほうが……」
私に気づいた園長先生が心配そうな表情を向けた途端だった。
急に足元が崩れるような感覚がして、力が抜けて行った。
「萌……っ!」
その低い声と共に、力強い腕に抱き止められた気がする。
もう、限界……。
1番目になれないというのに、嫌いになれない。
忘れようとすればするほど、好きになっていく。
私、ずっとずっと邦章の事が忘れられないで、想い続けていたんだ……。