木曜日の貴公子と幸せなウソ
ギュッと私の手をにぎる先輩。
「……オレは萌の事、入学した時から好きだったよ」
「え、本当ですか?」
「うん。嬉しそうに桜を見上げる萌の姿が印象的だったんだ」
先輩の言葉で、入学式の日の事を思い出す。
中学を卒業して、義務教育が終わった。
今まで一緒だった地元の友達は、それぞれの進路へ行き、仲が良かった友人ともバラバラになった。
地元の駅から学校まで電車で通う。
新しい世界が広がっていくんだという、ワクワク感でいっぱいだった、高校の入学式。
そんな私を桜の花が、応援してくれるかのようにキレイに舞ったんだ。
でも、特別な事はしていない。
ただ、桜を見上げていただけだ。
「萌は見かけるといつも、友達と楽しそうに笑ってた。オレはその笑顔が好きだ」
成瀬先輩はそう言って、私の頭をなでてくれた。