木曜日の貴公子と幸せなウソ
遠回りの恋
しばらく邦章は私を抱きしめていてくれた。
「……っくしょん」
「あ、そうだ。萌は病人だった」
私がくしゃみをしたのがきっかけで、思い出したように邦章は立ち上がった。
そばにあった箱ティッシュから何枚かつかんで鼻をかんだ私。
「横になるか?ベッドあるけど」
「あ、いえ、いいです……」
「何エンリョしてんの。しかも敬語だし。さっきも言ったけど、警戒しなくても、オレは病人には手を出しません」
邦章はそう言って、私を抱き上げた。
細身なのに、どこからそんな力が出てくるのだろう……?
私はギュッと邦章にしがみついた。
隣の部屋に入り、窓側にあったベッドにそっと私をおろす。
「今、ココアいれてくる」
「……ありがとうございます」
「だから、敬語やめろって」
そう言った邦章の顔がほんのりと赤い。