木曜日の貴公子と幸せなウソ
「でもどういう意味?自分は結婚して子どももいるっていうのに、フッた男の事は覚えてないか……なんて、ふざけてんの?」
「……私にもよくわからない」
「どの口が言ってんのよ。そもそも結婚する身でありながら、萌を遊び相手に選んだのは自分でしょ?!」
「リサ、ちょっと落ち着いて……」
お酒が入っているせいなのか、リサは少しヒートアップしている。
周りをキョロキョロとしながら、私はなだめるようにリサの腕を引っ張った。
「思い出したら腹がたってきた。あの時、私も萌と一緒に泣いたんだから。涙返せっつーの」
「本当に、そうだよね……」
ジントニックを飲むリサの横で、私は深いため息をついた。
私の前に置いてあるのは、カシスオレンジ。
成人を越えても、ミルクも砂糖もなしのブラックコーヒーは飲めなかった。