木曜日の貴公子と幸せなウソ
もしかして家族と一緒?
そう思い、辺りをキョロキョロと見回してしまった。
「誰か探してる?今はオレ1人だけど?」
「あ、ああ、そうですか……」
考えてみれば、家族と一緒の時に私の名を呼ぶまではいいにしても、腕をつかむなんてありえないか。
そういえば、まだ腕をつかまれたままだ。
「あの、手を離してもらえませんか?」
「離したら逃げるだろ?」
「……別に逃げませんけど」
「本当?」
本当は逃げ出したいけど。
多分、全速力で逃げたとしてもすぐにつかまると思う。
念を押すように言われて、私がうなずくと先輩は手を離した。
「……それじゃ、さようなら」
「おい、帰っていいなんて言ってないだろ」
「お腹空いたし早く帰りたいんですけど」
いらだったように言うと、先輩はニコッと笑った。