木曜日の貴公子と幸せなウソ


もしかして家族と一緒?

そう思い、辺りをキョロキョロと見回してしまった。


「誰か探してる?今はオレ1人だけど?」

「あ、ああ、そうですか……」


考えてみれば、家族と一緒の時に私の名を呼ぶまではいいにしても、腕をつかむなんてありえないか。

そういえば、まだ腕をつかまれたままだ。


「あの、手を離してもらえませんか?」

「離したら逃げるだろ?」

「……別に逃げませんけど」

「本当?」


本当は逃げ出したいけど。

多分、全速力で逃げたとしてもすぐにつかまると思う。

念を押すように言われて、私がうなずくと先輩は手を離した。


「……それじゃ、さようなら」

「おい、帰っていいなんて言ってないだろ」

「お腹空いたし早く帰りたいんですけど」


いらだったように言うと、先輩はニコッと笑った。


< 69 / 207 >

この作品をシェア

pagetop