木曜日の貴公子と幸せなウソ


当然、発熱はウソ。

あの時、お腹が痛いとか言って布団から出なかった気がする。

今までずる休みなんてした事がなかったし、どちらかというと健康的でほとんど学校を休まなかったから、両親に疑われることはなかった。

かなり心配されて良心は痛んだけれど。

ケータイの事もそうだ。

お風呂で誤って落としてしまったと、申し訳なさそうに言ったら、進級祝いという名目で新しいの買ってもらえた。

こんなウソは二度とつかないと両親に心の中で強く誓ったのを覚えている。

……すべてこの男のせいだ。


「メールもケータイも繋がらなくなって、家も知らないし、あの時はマジで焦った。何度か下校時刻に門の前で待ってみたけれど、萌に会う事はなかった」

「……部活に入ったんで」

「へぇー。何部?」

「バスケ部に……」

「経験者だったっけ?」

「いえ、初心者ですが」


淡々と答えるけれど、先輩の質問は止まらない。


< 74 / 207 >

この作品をシェア

pagetop