木曜日の貴公子と幸せなウソ
「何でまた急に……」
「もう過去の事です。どうでもいいです」
「オレは聞きたいんだけど。だって突然連絡取れなくなって、その後どうなったのか知らないし」
赤信号で車が止まる。
先輩の横顔は相変わらず綺麗なまま。
メガネのせいで少しきつい印象があるけれど。
「別に話のネタになるような劇的な事はありませんよ。普通に進学して、こうして幼稚園教諭になりました」
「そういう意味じゃなくてさ……」
私の答えに先輩は困ったように苦笑した。
だけど私は、そっぽを向いて、キュッと唇をかみしめる。
先輩に裏切られた事を知って、毎日忘れようと必死に頑張りました……。
そんな嫌味でも飛ばせばいいのだろうか?
でも、そんな事をしても何の意味もない。
ただ私がバカな女になってしまうだけだ。